近世歌謡で歌われている当時の社会慣習など、覚えておくと歌謡の理解に役立つかもしれないこまごまを、ここに書き連ねていくつもりです。
一人称・二人称 後朝の別れ 近世ってなに? 近世の結婚形態について(妻問い婚) 待つ恋 歌謡のリズム(音楽としての側面)
●一人称・二人称
近世歌謡によく用いられる一人称には、男女を問わず「われ」・「わし」・「おれ」が用いられていました。
二人称には、男女を問わず「君きみ」・「我御料わごりょ、わごれう」・「様さま」・「そなた」・「おまへ」が用いられていました。女性が男性を呼ぶものとして「殿との」・「ぬし」が用いられていました。男性から女性を呼ぶものとして「こなた」が用いられていました。
●後朝きぬぎぬの別れ
朝、男性が女性と別れて帰っていくときの別れのことです。「待つ恋」と並んで、恋愛でもっともつらい時のひとつに数えられています。この別れの時を告げるものとして、恋人たちに幾星霜にもわたって恨まれ続けてきた存在が、明けの烏(鳥)と鐘つく人(鐘)です。
●近世ってなに?
意外と多いのが、この質問です。この質問をしてくる人のほとんどが、近世と近代を混同しているようです。「近世歌謡? ああ、与謝野晶子とか正岡子規ね。」(←すでに歌謡というよりも詩歌の世界)という反応が返ってきたこともあります。
近世というのは、近代と中世の間に位置する時代区分です。文学や歴史学など、分野によって若干異同があります。ここではだいたい織豊期前後から、江戸時代末ぐらいまでをさします。
●近世の結婚形態について
近世においては、「妻問い婚つまどいこん」という、男性が女性のもとに通うという結婚が一般的でした。したがって、近世の歌謡において、特に明記していなくても、待つ側は女性であり、通う側は男性ということです。
●待つ恋
「妻問い婚」という結婚形態のため、女性の側は恋人を恋しく思っても、自分から会いに行くことはできず、恋人が訪れるのを待つことしかできません。この、恋人の訪れを待つ、というのは、近世歌謡に非常に多く見られるテーマです。「後朝の別れ」と並んで、恋愛でもっともつらい時のひとつに数えられています。
●歌謡のリズム(音楽としての側面)
近世歌謡も、歌われていた当時には節付けがあり、音楽としての側面も持っていました。ですが、現在ではほとんど失われてしまっています。琴や三味線の手引書に載っている歌謡もあります。また、一部の歌謡の書には、節付けをおこなうための傍点や記号が付けられたものもあります。しかし、これらの記号がどんなリズムに対応しているのか、まだよく分かっていません。伝統芸能として保存されてきたものから類推するくらいです。
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